⚠️注意 この記事はNHK公式のガイドをもとに、放送前の見どころをまとめたものです。 展開に触れる部分がありますので、まっさらな状態で見たい方はご注意ください。
清須会議から、わずか半年。あれだけ根回しで丸くおさめたはずの織田家が、とうとう刀を抜き合います。
「賤ヶ岳(しずがたけ)の戦い」です。教科書で名前は見たけれど、中身は「秀吉が勝家に勝った戦い……だよね?」くらいで止まっている方も多いのではないでしょうか。
でもこの回、勝負を決めるのは秀吉でも勝家でもありません。前田利家という、どちらにもなりきれなかった一人の男の背中です。
そしてこの戦いの結末が、次回「市の最期」へとまっすぐつながっていきます。
この記事でわかることはこちらです👇
- 清須会議のあと、なぜこんなに早く戦になったのか
- 秀吉が冬のあいだに仕込んでいた「勝家封じ」
- 「天下人になってくだされ」に込めた利家の本心
- 鬼玄蕃・佐久間盛政の“やりすぎ”が勝家を追い詰めた理由
- 52kmを5時間──「美濃大返し」という離れ業
- 勝敗を分けた、利家のもうひとつの“背き”
豊臣兄弟!第32話:秀吉の動き|冬のうちに信孝を潰し、勝家を封じる
天正十一(1583)年十二月。清須会議で決めた合議制は、もう半年ももちませんでした。秀吉が動きはじめます。
雪の北陸を、そのまま味方につけた
秀吉はまず、清須会議で勝家の領地になっていた長浜を奪い返し、続いて岐阜城の織田信孝を攻めます。信孝は、信長の三男。清須会議で「名代」を争って敗れた、あの人です。
ここで効いてくるのが、雪です。信孝が頼りにしている勝家は、北陸の本拠・北庄(きたのしょう)にいます。冬のあいだ、雪で道が閉ざされて、勝家は援軍を出せない。それを見越したうえで、秀吉は信孝だけを狙い撃ちにしました。
孤立した信孝は、あっけなく降伏します。三法師を引き渡し、人質を差し出して頭を下げました。
👇豆知識|清須会議から、たった半年で戦? 清須会議(第30話)は「織田家を割らないための合意づくり」でした。四人の重臣で三法師を支える、という建前です。でも“先送り”した火種は消えていません。信孝と勝家が組み、信雄と秀吉が組む。名代の座を空けたまま散会したツケが、半年で戦になって噴き出したわけです。会議で丸くおさめることと、火種を消すことは、別なんですね。
豊臣兄弟!第30話見どころ解説!清須会議で争われた「名代」とは?
上杉と結んで、勝家の背中を締める
山崎城に戻った秀吉は、小一郎にもうひとつの成果を告げます。越後の上杉(景勝)を味方につけた、と。
これが地味に大きい。勝家の本拠・越前のさらに北、越後に上杉がいます。上杉が秀吉側につけば、勝家は南の秀吉と北の上杉に挟まれる形になる。うかつに大軍で南下できなくなります。
秀吉は、正面から斬り合う前に、盤面の外側をどんどん埋めていく人なんですね。

清須会議のときも「入る前に終わらせてる」タイプでしたけど、今回も同じ。雪を待ち、上杉を口説き、信孝を先に潰す。戦場に立つころには、もう外堀が全部埋まってる。こういう人が本気で敵に回ったら、いちばん怖いだろうなあと思っちゃいます。
📌まとめ
秀吉は雪で勝家が動けない冬を狙って信孝を降伏させ、上杉とも結んで勝家を南北から封じた。戦う前に、もう勝ちに行く条件を整えている。
豊臣兄弟!第32話:勝家と利家|「天下人になってくだされ」に込めたもの
秀吉は、決戦の前にもう一手打っていました。勝家の“右腕”である前田利家を、味方に引き込もうとしたのです。
雪の七尾城に、秀吉が現れる
雪の降りしきる能登・七尾城。城主・前田利家の前に、突然、秀吉が姿を見せます。
秀吉が持ち出したのは、理屈ではなく“縁”でした。利家の娘・豪姫を養女にもらった大恩があること。そして、妻の寧々と、利家の妻・まつを、敵どうしの妻にはしたくないこと。
「おぬしがわれらに降れば、さすがの鬼柴田も諦めるであろう」
けれど利家は、折れません。
「あの親父殿はそんなタマではないわ……わしが寝返ろうと寝返るまいと、降伏などせぬ」
そう言って、秀吉を部屋から追い出してしまいます。
👇豆知識|秀吉と利家は、もともと“同期” 秀吉と利家は、若いころ信長のもとで肩を並べていた古い仲間です。しかも豪姫(利家の娘)は秀吉・寧々夫婦の養女、まつと寧々も親しい間柄。つまり二人は、敵味方に分かれてはいても、家族ぐるみの付き合いがある。秀吉が理屈ではなく“縁”で口説いたのは、そこがいちばん効くと知っていたからでしょう。この関係が、のちの戦場での利家の判断に、じわりと効いてきます。
腕相撲と、「天下人になってくだされ」
いっぽう北庄城では、勝家が家臣を集めて宴を開き、秀吉を討つ意志を告げていました。
その席で、利家は勝家と腕相撲をします。接戦の末、利家が勝つ。褒美に何が欲しいかと問われて、利家はこう言い放ちます。
「それでは……殿……天下人になってくだされ」
勝家は、一喝しました。
「このたわけが! そのようなことをわしが望むとでも思っておるのか! 上様の作られた織田家をお守りし、いずれ三法師様を天下人にする。それこそがわしの務めじゃ!」
利家は、頭を下げるしかありません。

この腕相撲のシーン、あとから効いてくる気がするんです。利家は「あなたに天下を獲ってほしい」と願った。でも勝家は「わしはそういう男じゃない」と突っぱねた。利家がいちばん見たかった勝家の姿と、勝家が生きたい姿が、ここでずれてしまう。決戦で利家が下す“ある決断”を、この一場面が静かに準備している気がします。
📌まとめ
秀吉は縁を頼りに利家を口説き、利家は表向き断る。だが勝家との「天下人になってくだされ」のやりとりで、二人の想いのすれ違いが描かれ、のちの離脱への伏線になる。
豊臣兄弟!第32話:前哨戦|柳ヶ瀬の対陣と、鬼玄蕃の“突出”
天正十一(1583)年三月。雪が解け、いよいよ両軍が動きます。
二万の勝家、対する秀吉
勝家は二万の軍勢を率いて越前を出陣し、北近江の柳ヶ瀬に布陣します。秀吉もこれに応じて軍を動かし、両軍は北近江で正面から対峙しました。小一郎は、守りの要である田上山(たがみやま)砦に入ります。
ところが、両軍はにらみ合ったまま、しばらく動きません。
👇豆知識|賤ヶ岳の戦いって、何を争った戦い? ひとことで言えば「信長の跡目争いの、決着戦」です。清須会議で“先送り”にした主導権を、秀吉と勝家のどちらが握るか。表向きは織田家を支える重臣どうしですが、勝ったほうが実質的な天下人に近づく。だから両軍とも一か月近く動かず、にらみ合いが続きました。うかつに攻めれば負ける──それがわかっているから、みんな最初の一手を出せずにいたんですね。
信孝の再挙兵で、秀吉が抜ける
小一郎が読んでいたとおり、信孝がまた岐阜で挙兵した、との報せが届きます。降伏したはずの信孝が、勝家の出陣に合わせて動き出したのです。
秀吉は、これを鎮めるために岐阜へ急行します。主力を率いて、戦線を離れました。
……この「秀吉が抜けた」というのが、勝家にとって千載一遇の好機に見えました。そして、それが罠かもしれないとまでは、まだ誰も気づいていません。
鬼玄蕃・佐久間盛政の“やりすぎ”
👤 登場人物|佐久間盛政(さくま もりまさ) 勝家方の先鋒を務める猛将。その荒々しさから「鬼玄蕃(おにげんば)」と恐れられました。この回では秀吉の留守を突いて大岩山砦を落とす活躍を見せますが、勝家の撤退命令に従わず前線に居座り、結果として柴田軍敗北の引き金を引くことになります。
秀吉が近江を離れた隙を突いて、勝家方の先鋒・佐久間盛政(さくまもりまさ)が動きます。最前線の大岩山砦を急襲し、これを陥落させました。守将の中川清秀は、ここで命を落とします。勢いに乗った盛政は、隣の岩崎山砦も攻め落とし、前線を一気に押し込みました。
ここまでは、勝家方の大戦果です。ところが──。
👇豆知識|中川清秀は「寝返って」いません 中川清秀(なかがわきよひで)は、摂津茨木城の城主。本能寺の変のあとは秀吉に従い、山崎の戦いでも活躍した、秀吉方の最前線を担う重要な武将でした。賤ヶ岳では大岩山砦を3,000の兵で守り、佐久間盛政の急襲に激戦の末、討死しています(享年42)。つまり“裏切り”ではなく、味方として最後まで戦って散った人です。そして皮肉なことに、この清秀討死の報こそが、次に起きる「美濃大返し」の引き金になります。
👇豆知識|勝家の命令を、盛政は聞かなかった 史実の賤ヶ岳で、勝家の敗因としてよく挙げられるのがこれです。大岩山を落とした盛政に、勝家は「深追いするな、陣に戻れ」と何度も撤退を命じました。ところが「鬼玄蕃(おにげんば)」と恐れられた猛将・盛政は、戦況有利と見て前線に居座り続けた。この“突出”が、戻ってきた秀吉に横腹を突かれる致命傷になります。勝家は、身内の暴走で足をすくわれたわけです。
📌まとめ 信孝再挙兵で秀吉が戦線を離れた隙に、佐久間盛政が大岩山砦を落とす。だが勝家の撤退命令を無視して前線に居座ったことが、勝家自身の首を絞めていく。
豊臣兄弟!第32話:美濃大返し|秀吉、52kmを5時間で
前線の砦を失った小一郎は、田上山砦で必死に佐久間軍に応戦していました。押されながらも、持ちこたえます。
そこへ──地鳴りのような足音が近づいてきます。
美濃にいるはずの秀吉が、驚異的な速さで戻ってきたのです。大岩山・岩崎山陥落の急報を受けた秀吉は、即座に軍を反転させ、柴田の兵を次々と退けていきました。
👇豆知識|「美濃大返し」という離れ業 これが、秀吉の名を一気に高めた美濃大返し(みのおおがえし)です。大垣(岐阜県)から木之本(滋賀県)までのおよそ13里=約52kmを、なんと5時間ほどで駆け抜けたと伝わります。しかも、ただ走ったわけではありません。秀吉は事前に、街道沿いの村々へ使者を送り、松明(たいまつ)と炊き出しの握り飯を用意させていた。兵が走りながら食べて、夜も松明で照らして進めるように、段取りまで組んでいたのです。本能寺の変のあとの「中国大返し」に続く、これが2度目。“走る秀吉”は、もはや彼の代名詞ですね。
👤 登場人物|桑山重晴(くわやま しげはる) 決戦の舞台・賤ヶ岳砦を守った秀吉方の将。史実では佐久間軍の勢いに一度は撤退を決めますが、駆けつけた丹羽長秀の援軍と合流して反撃に転じ、砦を取り返します。派手さはありませんが、戦況が秀吉側へ傾く“折り返し点”を現場で支えた人です。

「驚異的な速さで戻ってきた」って一行で書くと簡単ですけど、52kmって東京から小田原くらいあるんですよ。それを5時間、しかも武装した大軍で。ふつうは無理です。でも秀吉は“無理を可能にする準備”を先にしてあった。走る前に勝ってる、というか。ここでも「準備が9割」の人なんだなあと、しみじみ思います。
📌まとめ
田上山の小一郎が持ちこたえるあいだに、秀吉が52kmを5時間で駆け戻る「美濃大返し」を決行。松明と炊き出しまで手配した周到さで、突出した佐久間軍に襲いかかった。
豊臣兄弟!第32話:利家の離脱|勝敗を分けた、もうひとつの“背き”
秀吉の逆襲で、佐久間軍は敗走をはじめます。勝家の本陣に、その悲報が届きました。そこへ、静かに姿を現したのが前田利家です。
勝家、利家に斬りかかる
勝家は、すぐに察しました。利家が、自分の命令に背いて佐久間軍の救援に向かわなかったことを。勝家は刀を抜き、利家に斬りかかります。猛将どうしの激しい打ち合いの末、勝家の刃が利家の腕を斬りつけました。
「わしは! 親父殿に、上様の後を継いでほしかった!」
利家が思いをぶつけると、勝家は静かに答えます。
「その願いは、別の者と果たせ」
そう言い残して、勝家は陣幕の外へ去っていきました。独り残された利家は、涙を流します。そして、迷いのない覚悟の顔で、秀吉のもとへと向かうのでした。
👇豆知識|利家の離脱は「裏切り」なのか? 賤ヶ岳の勝敗を決めたのは、この前田利家の戦線離脱だ、とよく言われます。要である利家が抜けたことで、後方の諸隊も次々と崩れ、柴田軍は総崩れになりました。ただし、史実の利家が「秀吉と通じていた(内通)」のか、「形勢を見て撤退しただけ」なのかは、いまも決着していません。二人が古い同僚だったこと、開戦前から内々のやりとりがあったという伝えはあるものの、それを裏づける当時の一次史料は乏しいのです。“裏切り”と断じきれないからこそ、この場面は歴史ファンのあいだで今も議論が続く、賤ヶ岳いちばんの読みどころになっています。
👇豆知識|この戦いが生んだ「賤ヶ岳の七本槍」 賤ヶ岳といえば、もうひとつ有名なのが「七本槍(しちほんやり)」です。この戦いの前線で武功を挙げた七人の若武者――福島正則・加藤清正・加藤嘉明・脇坂安治・平野長泰・糟屋武則・片桐且元。彼らはこの手柄をきっかけに出世し、のちの豊臣政権を支える中核へと駆け上がっていきます。……ただ、覚えておきたいのは、この七人がやがて関ヶ原で東西に割れていくこと。賤ヶ岳で秀吉のために槍を振るった若者たちが、豊臣の未来を担い、そして豊臣を割る側にもなる。その原点が、この回にあります。
👤 登場人物|豊臣秀次(とよとみ ひでつぐ)※この時期は羽柴秀次 秀吉の甥にあたる若武者で、賤ヶ岳には七本槍と同じ世代として参陣しました。子のいない秀吉のもとで、のちに後継者候補として重んじられていく人物です。「豊臣兄弟」という家族の物語のなかで、これから存在感を増していく一人として、ここで顔を覚えておきたいところ。

「その願いは、別の者と果たせ」――このセリフ、勝家はもう気づいてるんですよね。利家が抜けたことも、自分がここで終わることも。そのうえで、責めるでもなく、利家の願い(=天下人になってほしい)を“別の誰か”に託して去っていく。腕を斬っておいて、最後は許してるみたいな。武骨な人の、いちばん不器用なやさしさを見た気がして、私はここがこの回でいちばん好きです。
📌まとめ
利家は勝家の命令に背いて動かず、戦線を離脱。これが柴田軍総崩れの決定打になった。「内通か撤退か」は今も謎のまま。利家は涙をこらえ、秀吉のもとへ向かう。
まとめ
第32話「賤ヶ岳の決闘」は、正面からの斬り合いの回です。でもよく見ると、勝敗を決めたのは戦の強さではなく、“命令に背いた二人”でした。
とくに大事なのはこの4つ
- 戦の火種は、清須会議の“先送り” — 名代を空けたまま散会したツケが、半年で戦になった
- 勝家を追い詰めたのは、身内の暴走 — 佐久間盛政が撤退命令を無視して突出したことが致命傷に
- 美濃大返しは、走る前に勝っている — 52kmを5時間。松明も握り飯も先に手配済みだった
- 勝敗を分けたのは前田利家 — その離脱が「内通」か「撤退」かは、今も決着していない
そして戦いのあと、待っているのは勝家とお市の物語です。次回、第33話は「市の最期」。北庄城で、二人がどんな最期を選ぶのか――ここまで見てきた私たちには、つらい回になりそうです。


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